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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(あ)664号 判決 1953年4月14日

主文

第一審判決及び原判決を破棄する。

被告人を懲役三月及び罰金八〇〇〇円に処する。

但し本裁判が確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

右罰金を完納することができないときは金二〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

第一審及び当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

東京高等検察庁検事長佐藤博の上告受理申立の理由及び弁護人河和松雄の答弁は別記書面のとおりである。

刑法五四条一項前段の一個の行為にして数個の罪名に触れる場合において、「其最モ重キ刑ヲ以テ処断ス」と定めているのは、その数個の罪名中もっとも重い刑を定めている法条によって処断するという趣旨と共に、他の法条の最下限の刑よりも軽く処断することはできないという趣旨を含むと解するを相当とする。いいかえれば数個の罪について刑を定めるには、各法条中の法定刑の最上限も最下限も共に重い刑の範囲内において処断すべきものとする趣旨である。本件において、第一審判決が公務執行妨害の罪と傷害の罪とを刑法五四条一項前段の一所為数法の関係において処断するにあたり、もっとも重い刑を定めた傷害の罪の法条によって処断したのは正当であるが、公務執行妨害の罪の刑が三年以下の懲役又は禁錮と定められ罰金の定めがないのにかかわらず、傷害の罪にその定めがあるのに従って、被告人を罰金二万円に処したのは、刑法五四条一項の解釈を誤ったものであり違法たるを免れない。従って論旨は理由があり第一審判決及びこれを是認した原判決は破棄を免れないが、本件は訴訟記録により直ちに判決するのを相当と認めるから刑訴四一三条但書に基いて次のとおり判決する。

第一審判決がその挙示の証拠によって確定した判示事実を法律に照すと、判示第一の事実中、公務執行妨害の点は刑法九五条一項に、傷害の点は同法二〇四条罰金等臨時措置法二条三条一項一号に、判示第二の事実は外国人登録令一三条五号一〇条罰金等臨時措置法二条一項四条一項、外国人登録法附則三項に各該当するところ右公務執行妨害と傷害は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから刑法五四条一項前段一〇条により重い傷害罪の刑に従い以上は同法四五条前段の併合罪であるから傷害罪については、所定刑中懲役刑を又外国人登録令違反の罪については所定刑中罰金刑をそれぞれ選択した上刑法四八条一項本文に従い所定刑期並びに罰金額の各範囲内で懲役三月及び罰金八〇〇〇円を量定してこれを併科し、但しその情状に鑑み同法二五条を適用して本裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予することとし、なお同法一八条により右罰金を完納することができないときは金二〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、訴訟費用は刑訴一八一条一項に則り被告人にその全部を負担せしめるべきものとする。

よって裁判官全員一致の意見によって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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